
第5回
アメリカ・フロリダ
キーズ
矢部 洋一 [ヤベヨウイチ]
1957年11月11日生まれ。海をフィールドとしてヨット、ボートの写真撮影を中心に、国際的に活躍するフォトグラファー。写真だけでなく、記者、編集、翻訳などの仕事を精力的にこなす。
●株式会社 舵社・チーフフォトグラファー
●有限会社 オフィスイレブン代表取締役
●英国王立オーシャンレーシングクラブ誌「シーホース」特約記者
前回はフロリダ・マイアミを訪ねたので、そのままハイウェイ1を南下して、フロリダ半島を一番南まで下り、さらに南西に伸びるキーズと呼ばれる小島の連なりを渡って、米国本土最南端の町、キーウエストへと向かってみよう。
「オーバーシーズ・ハイウェイ(海を越える道)」と呼ばれるキーズからキーウエストへの道はひたすら1本道である。このエリアは冬のアメリカの一大観光地であるのと同時に、ダイビングやゲームフィッシングの人気スポットであるため、ハイシーズンの週末や長い休みのときなど、1本道は激しく渋滞することがある。つかまったら最後、長時間の忍耐を要求される。またキーズはそれぞれの島が小さくホテルの数も限られているので、混雑しているときに予約なしで行った日には泊まるところもなかなか見つからず、えらい目にあう。
なんだかマイナスなイメージのことから書き始めてしまったが、混んでさえいなければ、ハイウェイ1のドライブはものすごく楽しい。何がといって、道路は小さな島を次々に渡っていくため、たくさんの橋を通る。その橋を通るときに、両側眼下に開ける海の色の美しいことといったらない。あらゆる種類のエメラルドグリーンがきらきらと輝いて目に飛び込んでくる。
キーウエストに向かって、右はメキシコ湾、左は大西洋が広がる。小島の水際にはマングローブが群生し、海の緑と良いコントラストをなしている。
橋の数は全部で50ほどもある。中でも有名なのは「セブン・マイル・ブリッジ」と呼ばれる長い長い橋だ。グリーンの海に白い橋がどこまでも続く。以前、マイルドセブンのコマーシャルに使われて日本でも一躍有名になった。
キーズではあらゆるマリンスポーツが楽しめるが、釣りは特に盛んだ。メキシコ湾流という豊穣な海流がキーズを通り、豊かな海を作っているのである。
キーズの中ほどに位置する「アイラモラーダ」という町は、「スポーツフィッシング界の首都」というキャッチフレーズがついているほどで、浅瀬の釣りから、カジキなどを狙うオフショアのビッグゲームまでスポーツフィッシングなら何でも揃っている。ちなみに、スポーツフィッシングというのは、魚との駆け引きを楽しむことを目的にした釣りのことで、釣った魚は逃がすというゲーム的なものだ(私は個人的には、魚をいたぶるだけのようであまり好きではない。釣ったらやっぱり食べてやらないと。ねえ)。
キーズで特徴的なのは、フラットボートという喫水の浅い小型のボートで、リーフの間を縫いながら、ボーンフィッシュやスヌーク、ターポンなどといった魚界のファイターたちを狙う釣りである。客はガイドを雇ってそのガイドのボートで海に出る。浅瀬に来るとガイドはエンジンを止め、長い竿でボートを操りながら静かに目指す魚を探す。この竿使いが、日本の川船の船頭のようで見ていて面白い。
キーズを渡りきった最後の島がキーウエストとなる。キーウエストといえば、ヨットの世界では毎年1月に行われている「キーウエスト・ウイーク」というレースが有名である。良い風と良い雰囲気の中でレースが楽しめるということで日本からも遠征をするチームがあるほどだ。
一般的に有名なのは、やはりヘミングウェイだろう。キーウエストにはこのアメリカのノーベル賞作家が住んだ家や、彼が好んで通ったというバーがあっていずれも観光名所となっている。行ったことはないが、毎年7月の第3週には「ヘミングウェイ・デイズ」という、彼の7月21日の誕生日にちなんだお祭りがあって、そっくりさん大会などが開かれ地元の人間たちを中心に大いに盛り上がるらしい。
キーウエストはゲイとレズビアンの文化が盛んなことでもよく知られている。サンフランシスコや東海岸のケープコッドと並ぶメッカなのだそうだ。私が初めて行った時には「道で財布を落としても、絶対に前にかがんで拾うなよ。うしろから犯されちゃうよ」などという冗談を言われたものだ。盛んと言われても、門外漢にはどのように盛んなのかはよく分からない。
キーウエストの町並みは緑豊かで、家のスタイルも木造の植民地風というのだろうか、古い家が今も多く残っていて、歩きや自転車で散策するにはとても楽しい。海際には心地の良いバーが並んで、夕方にはライブバンドが入って毎晩がパーティという華やいだ雰囲気に町は包まれる。
2005年6月12日